やまびこ停車場

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軍旗はためく下に 結城昌治著

題名 軍旗はためく下に

著者 結城昌治

発行所 中央公論新社

発行日 1973年9月10日

ISBN4-12-204715-3

 

 第63回(1970年上半期)直木賞を受賞し、1972年には映画公開もされた作品である。

 

 ロシアによるウクライナ侵攻のせいで、どうしても戦争に敏感にならざるを得ない。産経新聞ニュースサイトで紹介されていたのが読むきっかけだったが、記事の「陸軍刑法」という言葉と、リアルタイムで報道される「戦争犯罪」という言葉がくっついてしまった。

 

 ウクライナに侵攻したロシア軍兵士が略奪した品物をベラルーシ経由で母国へ送った、という内容のニュースを読んだときは唖然とした。戦争犯罪に急に関心を抱いた一件だった。決してお気楽な戦いではなかろうに、それも兵器の鹵獲ではなく民間人の私物だったものを・・・。我が国が他国から侵略されたら同じ事が起きるのかと思うと、憂鬱この上ない。

 

 さて、この本はそんな戦争犯罪とは少し異なるものである。交戦国に対して行った罪ではなく、日本軍の内部で起きた事件に対して理不尽に処刑された兵隊たちの話である。あとがきには「素材となった事件は存在するが、あくまでフィクションとして書いた」とあるが、これは絶妙な表現である。「事実を基にした小説」というのとも違う感じ。言いたくはないが、しかし言わない訳にはいかない・・・といったある種の使命感が伝わってくる。

 

 50年以上前の小説だから古本屋をちょっと探せば安く手に入るのだろうが、2021年に出された増補新版を読むことをお薦めする。何が増えたかって、著者自作解説が追加されたのだから。

 

 私も最初に読んだのは、古書店で購入した2006年の改版のものだった。上の書影も改版のものである。しかし日が経つにつれて増補新版が気になってしまい、結局図書館まで出向いて借りてきてしまった。10ページにも満たない追録だったが、やはり作者自身の言葉は重いと改めて感じさせられる。