やまびこ停車場

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三陸海岸大津波 吉村昭著

題名 三陸海岸津波

著者 吉村昭

発行所 文藝春秋

発行日 2004年3月10日

ISBN 978-4-16-716940-4

 

 今からちょうど126年前の1896年(明治29年)6月15日は三陸沿岸で大津波が発生した、いわゆる明治三陸地震の日である。地震発生時は蒸し暑く、生き残った者たちは裸同然の姿だったそうであるが、雨が連日続くと気温は急に低下し、寝具など一切失った被災者たちは寒さに身を寄せ合って震えていたとも書いてある。

 

 関東も先日6月6に梅雨入りし、気温の変化も大きく、半袖か長袖かと天気に左右されながら袖を通すものを変えている今日この頃。読み始めから被災当時の描写がより一層生々しく伝わってくる。

 

 本書は歴史の順番通りに、明治三陸地震昭和三陸地震チリ地震津波の3つの地震津波について記されている。昭和三陸地震は1933年(昭和8年)3月3日に発生したとあるが、東日本大震災は2011年(平成23年)3月11日に起きたから類似性を感じずにはいられない。まだ春とは呼べないみちのくの3月上旬に避難を余儀なくされた方々の厳しさが思い起こされる。

 

 もっとも、発生時刻については真逆も真逆で昭和8年のときは午前2時半頃、平成23年のときは午後3時前だったから、地震発生当時の状況は全く違っている。また、昭和のときは「アウターライズ地震」と呼ばれるもので、震源域も東日本大震災とは異なる。

 

 作者の吉村昭氏は記録文学の第一人者であるという。ノンフィクション、ルポタージュ、記録文学。実はこれらの違いがサッパリ分からないが、この作品はやはり記録文学という表現がふさわしいだろう。霧雨を糠雨と表現したり、津波の方言である「よだ」という言葉に言及したり、被災した子供たちの作文を引用したりと、文学らしさが伝わってくるからだ。

 

 この本は、東日本大震災後に増刷して随分と売れたという。私は古本屋で購入したのだが、奥付を見ると「2011年4月1日 第8刷」とあるから、元の持ち主は震災に感化されて購入したことは想像に難くない。

 

かく言う私は何に感化されたのかと言うと、昨年12月に発表された「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について」である。最大19万9000人が死亡するとの被害想定を公表したアレである。あの東日本大震災に比べても桁違いの数に正直驚きを隠せなかった。

 

 岩手出身の私にとっては非常に興味深い一冊であったが、吉村氏は他に「関東大震災」という著作も残してあり、いま関東に住んでいる私にとってはこちらこそ読まねばなるまいか。何だか氏の作品にどっぷりとハマりつつある予感がする。