※今回は画像なし
題名 わたしの流儀
著者 吉村昭
発行所 新潮社
発行日 2001年5月1日
ISBN978-4-10-111740-9
文庫本を読んだので発行日は2001年となっているが、元々は1998年に刊行されたものを文庫化したらしい。以前に読んだ「三陸海岸大津波」は興味深い内容で、この作品がきっかけで吉村昭という作家に興味をもつようになった。
2006年の逝去から16年も経っているにもかかわらず、書店に行けば本棚に見出し付きで新品の文庫本が幾つも並んでいる。文学界には全く疎いのだが、紛れもない大作家だったのだろう。それにしてもどんな人物だったのだろうか?作品の内容と同じくらい作者にも興味を持つのが私の特徴かもしれない。吉村作品の2つ目は、随筆集「わたしの流儀」である。
結論から言うと、吉村昭は典型的な昭和の男であった。昭和2年生まれなので当然といえば当然だが、読んでいると懐かしさを感じるのである。そういえば、昔はこんな大人たちばかりだったなぁ・・・。私も含めて、令和の大人たちは随分と様変わりしてしまった。
随筆は6つのテーマに分けられていて、そのうちの一つが「酒肴を楽しむ」という題で酒と食についてのものがあった。昭和男のイメージに反して(?)、この人は意外にも食に関しては小煩い。外食の頻度が多いのにも驚いたりする。
現代の「食レポ」にすっかり慣らされた身としては、食欲をそそるような凝りに凝った形容表現を巧みに織り交ぜているのだろうと期待を膨らませる。しかし案に相違して「うまい」の一点張りばかりだった。拍子抜けする位の実にシンプルな描写だったが、文章の面白さは美辞麗句のみに非ず、という事を教えてくれる。
ところで、この随筆集の「トンネルと幕」と題した一編で、吉村昭が「闇を裂く道」という鉄道トンネルを題材にした作品を手掛けていたことを初めて知った。
昔、トンネル走行中の蒸気機関車の煤煙対策としてトンネルの入り口に開閉できる幕を設けていた事があったらしい。「幕」とはそういう意味である。昔の御殿場線での話だが、当時の御殿場線は東海道本線の一部であり、同時に大動脈である東海道本線の隘路でもあった。
隘路打開のために御殿場線とは別の線路を作り、丹那トンネルという新たなトンネルが掘られることになるのだが、これが「闇を裂く道」のテーマとなる。僅か2ページほどの短編に「闇を裂く道」の面白さを垣間見たような気がしたので、次の吉村作品はこの長編小説を読むことになった。果たしてどんな物語が展開されるのか・・・。