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愛しの盛岡―老舗タウン誌「街もりおか」の五十年― 道又力編

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題名 愛しの盛岡―老舗タウン誌「街もりおか」の五十年―
編者 道又力
発売元 盛岡出版コミュニティー
発行日 2018年7月18日
ISBN978-4-904870-44-0

 

 1968(昭和43)年創刊の歴史ある盛岡のタウン誌「街もりおか」。創刊50周年を機に、掲載作品の中から100編を選り抜きして文庫化したのが本書である。今回は、盛岡人以外には全く意味のない読書感想になってしまうことを予めお許し願いたい。

 

 勤め人になるまで盛岡で生まれ育った私だが、地元タウン誌といえば「acute(アキュート)」しか知らなかった。今になってこの老舗誌の存在を知るとは、私は盛岡のことを知らな過ぎたと言わざるを得ない。

 

 雑誌の存在も然ることながら、記事の中身もディープ盛岡そのもので初めて知ることばかり。手こずったのは、旧町名のオンパレードで土地勘が全く冴えなかったことだった。すぐに分かったのは、若かりし父が下宿していたという長町(現:長田町)だけ。私は本当にあの街の住人だったのだろうかと思うくらいの惨敗っぷりだった・・・。

 

 記事は年代的に偏りがないように選ばれた感じがあり、いつ書かれたのかを意識して読むと面白かった。特に草創期に書かれた座談会の記録は盛岡弁丸出しで、思わず笑ってしまう。「あねさん、漬物くなんしぇ」って。(「ねえさん、漬物ください」の意。)

 

 そういえば中学生の頃、授業で騒ぐと「うるしぇ!」(「うるさい!」の意)と怒る英語教師がいて、変な喋り方だなぁと思った記憶があったが、今思えばその先生は盛岡弁にどっぷり浸って育ったのだろう。当時の生活圏の中でそういう喋り方の人は他にいなかったので、アレが方言だったという事実はちょっとした驚きだった。

 

 ところで、先日ちょっとだけ盛岡の実家に帰省していた。暑い盛りで水分補給が必要だったが、その半分は水道水で賄った。昔も今も盛岡の水道水は美味い。「おいしい盛岡の水」という一編が本書にも収録されているが、我が意を得たりという気持ちで一杯になるエッセイだった。

 

帯に書かれたキャッチコピーは「オメハン モリオガ 好ギダエン?」(私が訳するならば、「お前さん 盛岡 好きでしょう?」の意)で、短い一文だが私の知っている昔の盛岡に出逢えると直感。これが購入の決め手だった。期待は裏切らなかった。

 

 そして、本書を読んだ直後の帰省で盛岡駅のさわや書店に置いてある「街もりおか」の最新号を買って読んでみた。文庫本のほうは文章オンリーで、700ページ近くもある分厚いものだが、冊子のほうは写真がふんだんに取り入れられていてとっつきやすい。

 

 帰りの新幹線の中で一気に読んだが、故郷盛岡を愛おしくしてくれる人がこんなにもいるのかと思うと、盛岡で生まれ育って良かったとつくづく思う。「明日からまた仕事だ」と憂鬱になる気持ちを相殺するくらいに。