やまびこ停車場

ただいま、過去に投稿した記事の一部を非公開にしております。

新幹線100系物語 福原俊一著

f:id:Yamabiko-station:20220320131457j:plain

題名 新幹線100系物語
著者 福原俊一
発行所 筑摩書房
発行日 2021年4月10日
ISBN978-4-480-07394-5

 

 新幹線100系国鉄時代末期の昭和60(1985)年10月に営業運転を開始し、平成24(2012)年3月に引退するまでの間、27年に亘って東海道・山陽新幹線で活躍した車両である。

 

 本書の出版は100系引退後から9年後の令和3(2021)年4月。「世間からすっかり忘れ去られた今、なぜ100系?」というのが第一印象だった。それが却って惹きつけられたところでもある。ブームや流行に左右されない、正統派の匂いが感じられる。

 

 本書の言葉を借りるならば、この本は「産業技術史的な足跡をつづった物語」である。題名にもあるが、「物語」という点は強調しておきたい。断片的な事実の羅列ではなく、100系にかかわった人たちの想いが込められたエピソードが時の流れに沿って展開されている。

 

 ところで16編成の100系には、X編成、G編成、V編成の3種類が存在した。私は昔も今も丸暗記は苦手で、100系全盛期の頃、それぞれの違いが全く頭に入ってこなかった。時刻表の後ろには新幹線の編成表が載っているが、眺めていて「同じ100系なのになんでこんなに沢山あるんだろう?」と疑問に思っていたことを思い出す。

 

 本書を読み進めていくと、この編成の違いは明瞭に際立ち、この違いが生まれるべくして生まれたということが腑に落ちてくる。

 

 最初に登場したのはX編成だった。100系の最大の特徴は2階建て車両だが、これは先代0系新幹線の食堂車の眺望を改善するためのアイディアだったという。X編成は全て国鉄時代の製造で、全てがJR東海に引き継がれた。

 

 次に登場したのがG編成。国鉄からJRへ民営化となり、JR東海がすべて発注した。当時の利用状況を鑑みて、食堂車の代わりにカフェテリアが設けられたそうだが、昔はカフェテリアがどんなものかさっぱり分からなくて、今でいう「イートイン」を勝手に想像していた。全然違ってたし・・・。

 

 100系新幹線で心残りだったのは、食堂車に乗れなかったことと得体の知れなかった(笑)カフェテリアを使う機会がなかった事である。私もまだ若かったから仕方がない。少年時代は、自由に移動が出来る大人たちが羨ましかったことを覚えている。

 

 それはさておき、G編成に続いて最後に登場したのがJR西日本が発注したV編成である。東京から博多まで長時間走らせるので、G編成とは異なり、食堂車は存続したのである。一方で利用状況を鑑みてX・G編成にあったグリーン個室は無くしたという。

 

 V編成の見た目の大きな特徴は2階建て車両が4両ある点で(他の編成は2両)、この編成は特別に「グランドひかり」という名前が付けられた。大きければ凄いという短絡的な思考で、若かりし頃の私はグランドひかりこそが新幹線のフラッグシップだと信じていたものである。今はどうだろうか?。個室もあるX編成だって負けていないよね、と思ったりもする。

 

 何にも背景を知らないと、X・G・V編成なんてただの雑学でしかないのだが、開発に携わった当事者が世間のニーズをどう捉え、どういう想いでそれを車両に盛り込んでいったのか。そういう気持ちを追いかけていくと、この3編成の違いがとても味わい深いものに変わってくる。100系全盛の頃にこんな本が手元にあれば良かったのに・・・と思わずにはいられなかった、良い一冊である。