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国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊 石井幸孝著

題名 国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊

著者 石井幸孝

発行所 中央公論新社

発行日 2022年8月25日

ISBN978-4-12-102714-6

 

 今年は鉄道開業150周年。節目の年に相応しいテーマの本が発表されたものである。国鉄が分割されてJRになったのは昭和62(1987)年のことで、もう35年も前の事になるが、過去を振り返るには丁度良い時期だと思う。

 

 鉄道150年の歴史の中で、公共企業体日本国有鉄道」の時代はたったの38年間(昭和24(1949)~昭和62(1987)年)。長いようで意外と短かったと感じるのは私だけだろうか。その38年間を大雑把に分けると昭和39年の東海道新幹線開業を境に、それまでが栄光でそれ以降が崩壊というスタンスで書かれている。

 

 昭和39年度に決算が初めて赤字になり、分割民営化になるまで二度と黒字には戻らなかった、というのが一つの根拠である。国鉄はなぜ崩壊したのか。それは私が一番知りたかった事だが、「金利倒産」という側面を持っていたと本書は教えてくれる。

 

 早い話が借金が返せなくなって潰れたということだが、問題はなぜ借金をしたのか、である。単なる収入減(=利用者離れ)が一番の原因だと思っていた私はずっと勘違いしていたことに初めて気づく。

 

 国鉄末期の昭和59年度の数字を見てみると、長期債務残高は21兆8269億円、収入は3兆5686億円で経費が5兆2190億。経費のうち金利経費が1兆6504億円。ということは利払いを除いた支出は3兆5686億円で、収支トントンと言って差し支えない。

 

 思いの外善戦していたというのが正直な感想であると同時に、金利だけでこれだけ苦しめられるのか・・・。赤字を甘く見てはいけないと、改めて痛感させられる。

 

 東海道新幹線をはじめとした設備投資には巨額の資金が必要になる。公共企業体として資金は自前で調達する必要がある。つまり借金と言う形をとることになる。何から何まで全て政府が資金手当てをしてくれるのではない。この点も私は勘違いしていた。

 

 巨額投資の問題は国鉄発足当初まで遡り、終戦直後の疲弊した国家鉄道を国が自ら投資して復旧させた後で、公共企業体に移るべきだったと著者は分析している。国鉄は発足当初から既に金利倒産の宿命を背負っていた。そう思わずにはいられない。

 

 著者の石井幸孝氏は50年以上も前に、同じ中公新書から「蒸気機関車」という本を出した経歴がある。新書というコンパクトなサイズに、分かり易くもツボを押さえた解説が印象的だった。他に雑誌の寄稿も読んだことがあるが、これもまた要領を得て分かり易い。今回も「この著者ならば・・・」と、名前だけで買ったようなものである。

 

 「蒸気機関車」出版当時は国鉄大船工場長の肩書だったが、それから時は流れ、国鉄分割民営化の際にはJR九州の初代社長となるまでに至る。今回の出版に際しては、経営者目線で国鉄を論ずることになる訳で、国鉄の光も影も味わってきた著者がどう評価するのか・・・、これもまた一つの見どころである。