やまびこ停車場

ただいま、過去に投稿した記事の一部を非公開にしております。

新幹線100系物語 福原俊一著

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題名 新幹線100系物語
著者 福原俊一
発行所 筑摩書房
発行日 2021年4月10日
ISBN978-4-480-07394-5

 

 新幹線100系国鉄時代末期の昭和60(1985)年10月に営業運転を開始し、平成24(2012)年3月に引退するまでの間、27年に亘って東海道・山陽新幹線で活躍した車両である。

 

 本書の出版は100系引退後から9年後の令和3(2021)年4月。「世間からすっかり忘れ去られた今、なぜ100系?」というのが第一印象だった。それが却って惹きつけられたところでもある。ブームや流行に左右されない、正統派の匂いが感じられる。

 

 本書の言葉を借りるならば、この本は「産業技術史的な足跡をつづった物語」である。題名にもあるが、「物語」という点は強調しておきたい。断片的な事実の羅列ではなく、100系にかかわった人たちの想いが込められたエピソードが時の流れに沿って展開されている。

 

 ところで16編成の100系には、X編成、G編成、V編成の3種類が存在した。私は昔も今も丸暗記は苦手で、100系全盛期の頃、それぞれの違いが全く頭に入ってこなかった。時刻表の後ろには新幹線の編成表が載っているが、眺めていて「同じ100系なのになんでこんなに沢山あるんだろう?」と疑問に思っていたことを思い出す。

 

 本書を読み進めていくと、この編成の違いは明瞭に際立ち、この違いが生まれるべくして生まれたということが腑に落ちてくる。

 

 最初に登場したのはX編成だった。100系の最大の特徴は2階建て車両だが、これは先代0系新幹線の食堂車の眺望を改善するためのアイディアだったという。X編成は全て国鉄時代の製造で、全てがJR東海に引き継がれた。

 

 次に登場したのがG編成。国鉄からJRへ民営化となり、JR東海がすべて発注した。当時の利用状況を鑑みて、食堂車の代わりにカフェテリアが設けられたそうだが、昔はカフェテリアがどんなものかさっぱり分からなくて、今でいう「イートイン」を勝手に想像していた。全然違ってたし・・・。

 

 100系新幹線で心残りだったのは、食堂車に乗れなかったことと得体の知れなかった(笑)カフェテリアを使う機会がなかった事である。私もまだ若かったから仕方がない。少年時代は、自由に移動が出来る大人たちが羨ましかったことを覚えている。

 

 それはさておき、G編成に続いて最後に登場したのがJR西日本が発注したV編成である。東京から博多まで長時間走らせるので、G編成とは異なり、食堂車は存続したのである。一方で利用状況を鑑みてX・G編成にあったグリーン個室は無くしたという。

 

 V編成の見た目の大きな特徴は2階建て車両が4両ある点で(他の編成は2両)、この編成は特別に「グランドひかり」という名前が付けられた。大きければ凄いという短絡的な思考で、若かりし頃の私はグランドひかりこそが新幹線のフラッグシップだと信じていたものである。今はどうだろうか?。個室もあるX編成だって負けていないよね、と思ったりもする。

 

 何にも背景を知らないと、X・G・V編成なんてただの雑学でしかないのだが、開発に携わった当事者が世間のニーズをどう捉え、どういう想いでそれを車両に盛り込んでいったのか。そういう気持ちを追いかけていくと、この3編成の違いがとても味わい深いものに変わってくる。100系全盛の頃にこんな本が手元にあれば良かったのに・・・と思わずにはいられなかった、良い一冊である。

イラストひと目でわかる庭木の剪定基本とコツ 内田均監修

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題名 イラストひと目でわかる庭木の剪定基本とコツ
監修者 内田均
発行所 家の光協会
発行日 2013年10月1日
ISBN978-4-259-56420-9

 

 実家が空き家になってから庭の手入れは私が行うようになったのだが、虎刈りもいいとこで剪定後の姿が全く美しくない。年数回の帰省(=手入れの回数)で美しさを求めるのがそもそもの間違いだが、何年経ってもド素人のままだと自分でも段々と嫌気が差してくる。せめて刈ってから数日間だけでも綺麗な姿を甦らせたい。

 

 今年こそはド素人から「ド」の字だけでも外したいという気持ちに駆り立てられて手にしたのがこの本である。ゴールデンウィークには再び帰省して作業するから、遅くともそれまでには剪定本を読み終わらせたかった。余裕をもって読了したので、今年はもう少しマシな手入れが出来るか?

 

 この本は主要な庭木ごとに剪定のポイントを紹介しているので、実用的である。一般論よりも樹木ごとの具体的な実践法を知りたかった私にとっては丁度良い。もちろん、基本的な一般論や用語もしっかりと押さえてある。私みたいな入門者向けの分かりやすい本である。

 

 新しい言葉を幾つも覚えることになったが、いろいろな言葉があるという事は、用語の数だけ注意を払うべきポイントがあると言っても良いだろう。芽の出方も、枝の伸び方も全く気にしないで、伸びた枝葉を無思考に刈り落としてきた自分がチョット恥ずかしくなってくる。

 

 結果として何度も樹勢を弱める剪定を繰り返したことになったのだが、しかしそれにも負けず、毎年手こずる程旺盛に生長し続ける庭木たち。植物の生命力の偉大さを感じずにはいられない。

 

サイコパス 中野信子著

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題名 サイコパス
著者 中野 信子
発行所 文藝春秋
発行日 2016年11月20日
ISBN978-4-16-661094-5

 

 ここ数年の間だろうか、サイコパスと言う言葉を見聞きするようになったのは。

 

 小学生の頃に超能力ブームがあって、サイコキネシスとかそういう言葉も流行っていた。なので「サイコ○○」という言葉には人並み外れた何か特異なものを感じるところがあるのだが、もちろんサイコパスは超能力とは全く関係がない。常軌を逸しているという点では偶然の一致を見い出せるのかもしれないが・・・。

 

 サイコパスの特徴は「恐怖心や不安を感じにくい」、「共感性がない」、「良心がない」、「罰に懲りない」など説明を挙げればキリがないが、一番印象に残ったのは「譫妄なき狂気」という表現である。本書の最初のほうに「殺人者と好青年の間を平然と行き来」したというサイコパスの残酷なエピソードが紹介されていたが、そういうのを読むと的を射た表現だと言わざるを得ない。

 

 世の中には良心が通用しない人がいるようで、にわかには信じ難く、また信じてあげたいのが人情でもあるが、一方で脳科学者である著者の解説を読んでいると、原理的にそのような人は存在してもおかしくないと認めざるを得ないところもある。

 

 「サイコパスは犯罪と結び付けられて語られてきました」とあるように、多数のエピソードは犯罪絡みのものである。正直読んでいて陰鬱にさせられるが、その中で面白いと思ったのは、織田信長は勝ち組サイコパスではなかったのかという見解を示した点である(ちなみに、負け組サイコパスは犯罪者を指すらしい)。

 

 著者がどれくらい信長の事を調べ上げたのかは知らないが(私だって世間並みの知識しか持ち合わせていないのだが)、信長がサイコパスだとすると、全て辻褄が合うように思えてならないのである。そういう設定で時代劇やドラマを作ったら、意外とハマるのではなかろうか?

 

噴火した! 火山の現場で考えたこと 荒牧重雄著

 

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題名 噴火した! 火山の現場で考えたこと
著者 荒牧重雄
発行所 東京大学出版会
発行日 2021年10月15日
ISBN978-4-13-063717-6

 

 以前に読んだ「富士山噴火 その時あなたはどうする?」をきっかけに、にわかに火山噴火に対する興味が起きてしまった。題名にビックリマークが付いているから読みやすいだろうと踏んだら、案の定的中。「東大」から出版されているから難しいのか?と、一抹の不安もあったのだが杞憂だった。


 現役の第一線で活躍している研究者だろうと思ってページをめくったら驚いた。最初の一文が「火山の研究を一生の仕事として、はや六〇余年が経った。」とある。経歴を見ると、何と1930(昭和5)年生まれ、90歳の高齢の方が執筆されたのである。老いてなお意欲的でいらっしゃる姿に感銘を受けた。「感銘」、実は本書の至る所に出てきた言葉でもあり、著者の心情が意外な程に伝わってくる本もである。

 

 悠久の歴史を刻む火山に比べると人の一生など刹那の如くではあるが、人間社会においては火山の生き字引的存在である著者の体験談は実に豊かで面白い。カバー写真は伊豆大島三原山の1986年噴火の姿である。勿論「映え」がするだけのお飾りの写真ではなく、噴火当時は島に乗り込み、陸からも空からも間近で噴火を観察されていたのである。

 

 本書の数あるエピソードの中で突出して興味を持ったのが、この三原山噴火の章である。三原山は著者の所属していた東大が監視していた火山で、主役級の立場でご活躍されていた雰囲気がひしひしと感じられる。また、誰よりも火山に知悉している人物ですら、「恐怖心」と直截に表現されていたのも印象的だった。

 

 1986年噴火の記憶は私も持っている。巨大な溶岩噴泉の映像と全島避難というニュースは強烈なインパクトがあった。島民がペットを置き去りにし、無人の街を犬が徘徊していた映像も忘れられない。


 テレビ越しの映像だけで十分に驚いたものだが、現地に居た著者に言わせると映像は迫力が無くて拍子抜けをしたらしい。逆に言えば、噴火を間近に見れば想像以上の恐怖が我々を襲うだろうとも解釈できる。

 

 本書でも指摘があるのだが、火山の噴火は長時間続く可能性がある。数日、数カ月、数年・・・。江戸時代に起きた富士山の宝永噴火は2週間で収まったというが、次の富士山噴火が同じくらいの期間で終わるとは限らない。降り積もった火山灰が綺麗に片付いた頃にまた噴火、なんてことの繰り返しもあったりして・・・。実際、雲仙普賢岳は6年も続き、私もニュースを見て「まだ噴火してんの?」と呆れたことを思い出した。


 火山が噴火したら長期戦も覚悟しなければならない、というのが本書から得られた教訓である。

 

2022/02/23投稿
2022/03/07更新

富士山噴火 その時あなたはどうする? 鎌田浩毅著

 

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題名 富士山噴火 その時あなたはどうする?
著者 鎌田浩毅
発行所 扶桑社
発行日 2021年8月20日
ISBN978-4-594-08950-4

 

 昨日1月15日に起きた、トンガ沖海底火山の噴火。その威力は凄まじく、トンガから遠く離れた我が国でも漁船が転覆するほどの津波に襲われた。改めて火山の爆発的なエネルギーに脅威を感じざるを得ない。

 

 さて、いま首都圏に住む身として気になる火山と言えば、やはり富士山。噴火によって引き起こされる災害は様々で、噴石・溶岩・火砕流・土石流など様々だが、地理的な事を考えると一番甚大なのは火山灰による被害だろう。しかし今回のトンガの大規模噴火を考えると、東京でも空振(噴火による衝撃波)でガラスが割れるのではないかと、さらなる不安が頭をよぎってしまう。


 それはさておき、火山灰が引き起こすであろう様々な被害に、全く面食らってしまった。慌ててゴーグルと防塵マスクを購入したが、焼け石に水でしかないと我ながら嗤ってしまう程に。

 

 ゴーグルは私みたいなコンタクト装用者は必須アイテムとなる。というか降灰時にはきっと痛くてコンタクトなんか嵌めていられないだろう。メガネの上からかけられて、防塵で、更に加えると曇らないもの。ド近眼者のゴーグル選びは慎重にならざるを得ない。

 

 そして新型コロナが流行し始めた時のように、火山の予兆があった時点でまたマスク不足も起きるのだろう。今度は防塵マスクで。もうあんな思いはしたくない。買うなら今のうち。ついでにヘルメットも購入した。

 

 更に、火山灰で見落としがちなものの一つに屋根の灰落としがあるという。屋根の雪下ろしと同様に、灰も下ろさないと重みで潰れるのだとか。更に水分を吸うと重みが増すというから侮れない。空き家を持っている人は被災時にそれだけの手間を割くことが出来るのだろうか?。私も故郷に空き家と火山があるから決して他人事ではない。

 

 2022年が始まってまだ16日。今年は災害に備える1年にしよう。

 

2022/01/16投稿
2022/03/07更新

「生まれ変わり」を科学する 大門正幸著

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題名 「生まれ変わり」を科学する
著者 大門正幸
発行所 桜の花出版
発行日 2021年11月11日
ISBN978-4-434-29667-3

 

 あけましておめでとうございます。

 

 新たな一年。生まれ変わったつもりという感じで、今年の読書感想はこの一冊からいきましょう。所謂「過去生」というものに焦点を当てた一冊。自分が生まれる前の記憶を持っているという人の証言が紹介されています。

 

 こういうスピリチュアルなものは、何はともあれ信用が一番。同じ現象でも誰が語るかで印象がガラリと変わると思うのです。私は過去生はあると思っている人ではありますが、この著者とこの出版社からでなければ、私もきっとスルーした事でしょう。


 ということで、書いてあることに偽りがないという前提で読んだ訳ですが、想像以上の分析が為されていることに改めて驚きを隠せません。

 

 2000例超の過去生記憶のデータベースを統計的に分析。これが科学的と称される所以だと思いますが、単なる記憶に基づく事実(例えば出身国や性別、利き手、写真がある場合は顔が似ているか・・・など)だけではなく、本人の気持ち(例えば、過去生の家族に会いたいか)など、聞き取りで調べられることはほぼ調べ尽くしている徹底ぶり。

 

 もう一つ衝撃的だったのは、なぜ過去生記憶を持っているかと言う考察について。所謂心的外傷を受けたような事になって本来の忘却メカニズムが働かないと書いてあったのですが、これが実に説得力があるのです。

 

 というのも語られた過去生の内容は結構壮絶なものが多く、中には我々が良く知っている事件の当事者(被害者)と思しきものも幾つかあります。総じて興味深い内容であった一方で、ずっと緊張感を覚えながら読んでいました。また、自分と同世代の人の証言もあって、不思議なリアリティーも感じたものです。

 

 それにしても、生まれ変わりは「輪廻転生」いう言葉があるくらいだから仏教の専売特許だと思っていたのですが、とんだ大間違い。仏教圏以外でもたくさん見つかった地域があって、とにかく本書の最初から最後まで驚きだらけ。過去生というものに抵抗を感じない方は、とても興味を持たれる一冊でしょう。

 

 地域を超えて生まれ変わりが起こると広く認知されれば、争い事や格差は減るのではないでしょうか。裕福な家庭から貧しくなる家庭へ、侵略する国から侵略される国へ生まれ変わる、そんな可能性を秘めているのだから。新たな一年がどうか安寧でありますように。

すりながしのレシピ 長島博著

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題名 旬野菜とだしで作る からだにやさしい日本のスープ すりながしのレシピ
著者 長島博
発行所 誠文堂新光社
発行日 2018年10月20日
ISBN978-4-416-61882-0

 

 ミキサーを手に入れてからは野菜スムージーを作って飲むことが増えたのだが、基本的には冷たい飲み物なので、冬になるとやっぱり温かいものが飲みたくなる。スムージーみたいなスープを求めていろいろ検索してみたが、言葉を知らないというのは決定的で、求めていた料理の名前が「すりながし」だと分かるまでに随分と時間がかかった。

 

 すりながしと言うと、私なんかは「とろろ」しか思い浮かばないが(だから「すりながし」に辿り着くまでに時間がかかった)、本書で紹介される食材は多彩で、自分が作ったのを例に挙げると、まいたけ・小松菜・れんこん・なばな・玉ねぎ・さといも・春菊など。一番美味しかったのは玉ねぎだった。玉ねぎの甘みと出汁の旨みが同時に味わえるのが堪らない。

 

 ハンドブレンダーがあれば作り方は至って簡単でシンプル。ミキサーでも全く問題無いが、ハンドブレンダーだと鍋に移し替える手間が省けて、且つ、洗い物も減る。

 

 シンプルという意味はいろいろあるが、まずは食材。汁の具を除けば用意する食材はたった一つで良い(炒める油、とろみ付けの片栗粉等は別に必要)。次に味付け。どの食材も塩と味噌だけ。そして分量。どの食材でも出汁と食材は重量比で1:1にすれば良い。

 

 もちろん食材によって幾つかの例外はあるが、食材にかかわらず匙加減が同じというのは私みたいな料理ど素人してみれば大きなメリットである。

 

 実はこの本は図書館に借りたものである。読書本は返却期限までに読了させるだけの余裕がない事が多いのですぐに買う事が多いが、この手の本は全ページ読む必要が無いのでチョイ借りにはもってこいである。 買おうかどうか迷っている方は、図書館で借りることをお薦めしたい。

 

 というわけで、色々と作ってみた結果、馴染めそうなレシピ本だという事が分かったので、購入決定である。挑戦したい食材はまだまだあって、大根に長ねぎに牡蠣に・・・。さて次は何を作ろうか。

 

2021/12/17投稿
2022/03/11更新